Episode 10
Wheel of Fortune

運命の輪

変化する幸・不幸。
正位置ならば運の最高の時、
逆位置ならば運の衰退期。
――巡りあう宿命――

正位置・・・輪廻、変化、時の流れ、運命、好転、幸運、神の思し召し、不可避の出来事、チャンス
・逆位置・・・不運、アクシデント、つかの間の幸せ、衰退期、望まない変化                   

<The Fencer Queen's Cronicles.>




「-V-だ、-V-が出た!
しかもRyoだ!
単騎だが、みんなやられている!


その一言がもたらされた瞬間、
その場にいた数名…少なくとも10名前後の青ネームがいたと思うのですが、
その間に動揺が走りました。


たった1人で…?


そんなバカな…という空気が流れます。
その刹那
目の前に赤い名前が見え、
金色の鎧に身を包んだ乗りドラに乗った、
短い槍の戦士が現れました!
ryoです。


何という大胆不敵さ。
何と意表を突いた登場。
虚を疲れた1人が、
その槍の標的になってしまいました。
先ほど、
衝撃の知らせをもたらした人でした。
既に幾分かダメージを受けていたらしく、
あっという間に殺されてしまいます。


「出た!」
「野郎!」
「逃がすか!」
「赤め!」
その青ネームの死の声を合図にして、
ryoへの追跡が始まりました。
これが長いシェイム攻防戦になろうとは、
この時はまだ、
誰も予想していませんでした。
この頃、
ryoが作っていたHPがありました。
これを見ると、
ほぼ毎日のように−V−は活動をしており、
AWCも本格的にチェックし始めているようでした。


AWCとは?


海外サーバーであるNAPAで活動していたPKギルド、
“Wicked Crowns”に対抗して作られた集団が、
“Anti Wicked Crowns”、
通称AWCでした。


これがUO最大のPKK集団、
AWCの原形です。
これが始まったのが、
1998年7月でしたので…UO黎明期ですね。
AWCの基本理念は、
以下のとおりです(AWCのHPより引用)。


AWCはギルドではなく、
PKと戦う意志を持ったプレイヤーの集まりです。
PKに関する情報を共有し、
戦力を集中することで、
PKに対する戦場での数的有利を確保するための集団です。


AWCは、
AWCに参加しているメンバーがPKと遭遇したり、
外部からの通報があり次第、現場に急行します。

私は今までPKKギルドに籍を置いたこともありませんし、
AWCメンと直接話したこともないのですが、
このAWCの理念はUOにおけるPKへの、
まさにアンチテーゼとして有効だと思います。
実績に関しては、
関わっていないので不明ですが…。


上記どおりギルドではないので、
接触を持つためにはIRCサーバーしか手がありません。
私もIRCをチェックしてみたのですが…、
タイミングの問題でしょうか。
会えた試しはありませんでした。


もちろん、HokutoシャードにもPKと戦う人たちがいます。
それぞれの理由を持って。


過去にPKされたため、その復讐に燃える人。
パワスク便乗に現れる赤ネーム駆逐のために、対人を鍛えた人。
過去にPKだったが、青ネームで活動したいためにPKKになった人。


この時期に限定して言えば、
パワスク導入のために青ネームが大挙して押し寄せていたために、
本当に対PKとして来ていた方はそれほど多くなかったと思います。
それをまざまざと見せ付けられたのが、この時でした。
赤ネームは明らかにryo一人しかいないはずなのに、
どんどん青ネームの死体が増えていくのです!


シェイム1階を舞台に繰り広げられたこの戦い、
赤ネーム1人を倒してあっという間に終わる…と思われたにも関わらず、
どれだけ青ネームが挑んでも終わりません。


一体、どうなっているんだ…?


そんな空気が出始めます。


その間にも、新しい青ネームが増えてきます。
この当時の仕様では一度ダンジョン内で死ぬと街まで自動的に飛ばされ、
ここがポイントなのですが、
20〜30分ほど戻ってこれなかったのです。
極端な言い方をすれば、
この間に青ネームを全員倒せば、
ryoの勝ちになります。


その場にいたフォードは、
それがもしや彼の狙いでは…?
と思い始めました。


「だめだ、もっと応援を呼ぼう」
「馬鹿言うな、相手は1人だぞ」
「そう言ってる状況じゃねえよ」
「つええ人がいるなら、呼んだほうがいいって」
「いいから、今いるヤツで囲んじまえばいけるわ」
「誰かAWC呼べって!」



そんな会話があちこちで交わされます。
これは一体…?
そんな疑問が、
フォードの中に湧き始めます。


一般的に、
赤ネームは確かに「悪」かもしれません。
殺し合いに、汚いも何もないかもしれません。
しかし。
この状況は、何だ?
ryoを擁護する気はないが、
この青ネームの団体は何だ?
たった1人に勝てないからと言って、
集団戦で倒せばいいと臆面もなく語るのか?

青vs赤が、
正義vs悪という、
単純な図式でないことを浮き彫りにしていきました。



この団体の中の1人でいて、
ryoを倒す気はどうしても私の中に起きてきません。
むしろ…、
恥ずかしさがこみ上げてくるのを否定できませんでした。



やがて、誰かがおかしなことに気づきました。
どこにもryoの姿が見えなくなったのです。


「逃げたんじゃねーの?」
「入り口ふさいでいるから、そんなわけないよ」
「でも、これだけ探していないしさ」
「やっぱ、ビビったんだって!」


確かに、これはおかしなことでした。
ヤツの性格上、
逃げてばかりなわけがない…!

フォードはそう思い、
誰も向かわない場所へと移動を静かに始めました。


青ネーム軍団の捜索の手は、
次第に2階へ、
3階へ伸び始めます。


俺がryoなら、どうする?
そう考えてみました。


こうやって皆がバラバラに探していることが、
ヤツの狙いではないのか?
そうすることによって、
青ネームの戦力を分散するのでは?


最もな結論ですが、
あることが抜けています。
それは、
ここまで戦っていてryoの物資はかなり消費されているはずであり、
包帯、POT、秘薬を補給しなくては、
さしもの彼もどうにもならない事態になっている…ということです。
フォードがFシェイム3階に足を伸ばし、
やはりここにもいないか…
と思って戻ろうとしたその時です。


「…フォードさんですね?」


1人の青ネームが声をかけてきます。


「あんたは…?」


「ryoさんは、この下にいます。4階です」


「何…?」


「私はryoさんの手の者です。フォードさんのことは、知っていますよ」


「…そうか」


「凌いできましたが、ryoさんは秘薬や包帯がもうないんですよ」


「言われてみれば、結構長かったからな」



「ええ。そこで、青ネームのギルドキャラに応援を頼んできたんです」


「なるほど、そういう手があったか」


「ただ、まだインしているメンバーが少なく…」


「…わかった。ryoのところに案内してくれ」

その青ネームキャラが案内してくれたのは、
シェイム4階の血エレ湧き場近くの橋を渡った、
行き止まりの広間でした。


「ryoさん…、ryoさん…」
青ネームキャラが呼びかけると、
ryoがインビジを解いて姿を現します。


「誰かにつけられ・・・フォード?フォードか?」
驚いたように、ryoが叫びます。


「ryoさん、ちょいと様子を見てきます」
「ああ、悪いな、頼むよ」

そのやり取りを残して、
その青ネームキャラは一旦去りました。

そのキャラが去った後、
2人はしばらく黙っていました。
やがて、ryoが切り出しました。


「帰れ、フォード。お前の世界に」


「――それが今のお前なのか、Ryo」


「…居座る気なら、お前の全てを否定してやる」


「ならば俺は、俺の全てを持ってお前を止める」


「お前に、出来るか」


「そうあるべきであれば、やるさ」


「あんなに青ネームが来ても、俺は生き延びたぞ」


「ああ…そうだな」


「トラメラーが何人来ても、意味はないってことだ」


「…」


「…トラメルでは、今思えばロクなことがなかったが、」


「…」


「それでも、お前のようなヤツがいたからな」


「結局、ここまで来たな」


「――ああ」


「――始めるか」


「それしか、ないだろう」


しかし、もうフォードには戦う意志はありませんでした。
今日のシェイム攻防戦を目の当たりにして、
何かがフォードの中で変わっていました。
ryoが攻撃を開始して、
突っ込んでこようとした時です。


「待て、ryo」
フォードは短く言いました。



その時、
赤・青混在のキャラが数名、その場にやってきました。
赤ネームには-V-のタグがついているところから、
全員仲間のようです。


「ryoさん、無事っすか」
「奴ら、結構人集めてます」
「AWC、動き出しました」


そんな会話が飛び交います。
彼らの何人からは挨拶をされたので、
面識はなくてもフォードのことはryoを通して知られていることがわかりました。

「もう帰れ、フォード」


-V-メンがこれからどうするかを協議し始めた時、
ryoがそう言い放ちました。
他のメンバーは一瞬黙ると、
「ryoさん、その言い方キツイっす」
「イタタ」
などと言っていました。


その言葉を受けてフォードは、
自分の持っていた包帯300枚、各POT30個、秘薬各100前後を
箱にまとめると地面に置きました。
「少ないが…何かの足しになるだろう。
俺は使わないので、爆弾はないが。
今回はオマエもキツイだろう。
俺はオマエを認めたわけじゃないが、
今回のは納得できない。
だから、
これだけ置いていく」


「マジっすかー」
「助かります!」
フォードが置いた箱を、
そう言いながら他の-V-メンが早速仕分け始めました。


「フォード、何勘違いしてるかわかんねぇけど、これが普通なんだよ」


「…そうか」


「帰れ、トラメルへ」


それ以上、フォードは言葉を重ねず、
脱出策を練る-V-を残してその場を去りました。

フェルッカダンジョンからは、
リコール出来ません。
勝手知ったる道を、
乗っているオスタの歩を緩めながら、
フォードは地上を目指していました。


4階上がるのか…、長いな。


もう、戻ってもしょうがないか。
たとえようのない虚無感が、
何故かフォードの心を占めていきます。


その時。
「AWC登場、AWC登場!」
そう叫びながら、2人の青ネームが4階入り口に現れました。


そして。
有無を言わさず、フォードを攻撃してきたのです。
もう逃げる気も起きませんでした。
逃げたところで、包帯もPOTも秘薬もなく、
戦えるわけがありません。


殺されるのは、簡単でした。
彼らが本当にAWCだったのかどうか、
それはわかりません。



これ以降、
私は意図的にフォードを出さないようにしました。


現実的理由として、
まずフォードが-V-メンに知られていること、
本物かどうかは別にしても、
AWCメンにPKギルドの一員と思われたということが、
その大きな要因です。


青ネームに襲われたのは、
これが初めてでした。
青なのに堂々と襲ってくる、
その恐怖感は赤ネーム以上でした。

そして、
フォード・ダインのサーガは、
一旦ここで幕を下ろします。


この事件を堺に、
たまに出て来ることはあっても、
実に1年以上、
まともに稼動しなくなっていました。


どうして?
と、
フォードを知る人からは尋ねられました。
私はその都度、
「いやー、いまは女王を育てるので忙しくてさー」
と答えてきました。
でも、
本当の理由はそうではなかったのです。


フォードにはあまりの多くの出来事が起き、
私はそれを引きずってプレイ出来なくなってしまっていました。
こうして舞台を去ったフォード。
しかし、
戦いはこのままでは終わりませんでした。
2ndキャラとして成長していた女王は、
やがて,
フォード以上の対人専用キャラとしての方向性を見出すこととなります。


そして考えてみれば…、
むしろ女王の歴史こそが、
対PKの歴史でもあったのでした。
この時点ではまだ見ぬPKたちが、
やがて女王の首を狙って襲い掛かるようになります。


次回。
そのきっかけの事件からお話しましょう。


運命の輪はいまだ止まっていなかったことに、
フォード/女王は気づかされることになります。
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