第十話  変化する世界。


新しい仲間、
Ryoの出現でフォードの周りも少し変化し始めました。
Ryoは、
やはりフォードにとって大きな存在でした。
戦士の可能性をまざまざと見せ付けてくれたのが彼であることは、
疑う余地がありません。


最初の頃は二人で会うと、
Ryoのタイマン斬りに付き合う…
というパターンが続きました。
あくまで「付き合い」なので、
Ryoがタイマン戦をしている時は原則「観戦」モードです。


彼は相変わらず例の軽装で、
強敵たちに立ち向かっていきます。


この辺は…、
AoSに染まった現在のUOでは想像も出来ないと思います。
コンテンツに「最強フェンサー女王戦記」のコーナーがありますが、
あのタイマンなどは当時から比べれば、
話にならないほど簡単になっています。
騎士道スキルなし、
特効武器はあれども今ほど強くもなく、
魔法はレジだけで防ぐ世界。

そんな世界で、
Ryoは常に強敵の血を求め続けました。


その姿を見て羨ましくなってきたフォードは、
今まで興味本位でやっていたタイマンを、
本格的に行い始めようとします。





前回お話したとおり、
「GO!」さんのHPの影響もあり、
その思いが強くなっていたのも事実です。





この頃…。
2002年7月上旬にもなると、
常にフォードの周りにいた、
ZAXの影が薄くなりつつありました。


彼女は家を買うための資金集めに奔走する日々が続いており、
(※主に、ブラッドでの血エレ狩り)
たまにそれに付き合うことはあっても、
フォードとしてはRyoと一緒に狩りをして、
腕を磨くことが面白くてしょうがなくなっていたのです。
…戦士の皆さんには、
こういう覚えがあると思います。





そんな数少ないZAXとの狩り…、
いつもどおりイルシェナー霊性・ブラッドダンジョンでの血エレ狩りの最中に、
あるアイテムが出現しました。
悪魔特効のハルバードです。
悪魔特効です!
デーモン特効とは訳が違います。


ここで少し、
特効武器に関して解説します。


AoS前…2000年のUO:R(ルネッサンス)の時期から、
新マジック武器として「特効武器」が出現し始めました。
これは一部の敵には非常に有効、すなわちダメージが2倍になる、
という特典がある代わり、
その反対勢力からは2倍のダメージを受けてしまうという、
諸刃のアイテムでした。

しかし、
2倍のダメージを与えるというのは戦士にとって見逃せません。
出現する確率もそれほど高くなく、
高価格で取引がされていました。


ちなみに、
「特効」とは特殊効果武器の略です。


この「特効」にはランクがあり、
例えばこの悪魔系武器は、
●デーモン特効
●ガーゴイル特効
●悪魔特効

の三段階に分かれていました。


デーモン特効は、
インプ赤閣下、氷閣下に有効(黒閣下は入らなかったらしい?)、
ガーゴイル特効はガーゴイル全般に有効、
そして悪魔特効は、
黒閣下、サッキュバス含む上記2種類の悪魔全てに効果がある、
まさに悪魔系モンスターへの最強の武器だったわけです。
(※サッキュバスは誤りでした)


悪魔系特効は、
エレメンタル系の敵から2倍のダメージを食らうという、
マイナス効果がありました。
そしてここがポイントなのですが、
エレメンタル系の敵からしか、
悪魔系特効が出ませんでした。

そーなんです。
敵対勢力から、
その特効がでるという…、
凝った設定がなされていました。


そのため最高の威力を誇る「悪魔特効」ともなれば、
エレメンタル最強の血エレからしか出ません。
AoS以降、
そうではないようですけどね。
私は風エレから「特効:エレメンタル」の武器を出しましたから…。





そのような事情だったため、
通常は斧を主武器に使っていたフォードでしたが、
この時ばかりはZAXに、
どうしてもその悪魔特効ハルバードが欲しい!
と頼み込みます。


戦士なら無理からぬことです。
フォードもZAXが譲ってくれるだろう…、
という甘い考えがありました。
ZAXはメイジです。
いくら高値で取引がされているとはいえ、
この狩りにはフォードも参加していたのだし、
今まで血エレ狩りをしていて戦利品のお金をもらったことはないし…。
恐らくはこのハルバード、
俺の物になるだろう!


そういう読みもあったのは、
恥ずべきながら事実です。


しかし。


その予想に反し、ZAXから出た言葉は、
「ねえ、フォード。
このハルバード、
私にちょうだい」
でした。


さすがに、フォードも慌てました。
まさかZAXからそんな言葉が出ようとは…。
やはり高額取引が狙いかな?と思って話していると、
どうやらそうではなく、
自分の他のキャラにハルバードを使わせたい、
ということでした。


はて…?
ZAXの他のキャラ…?





確かに最近疎遠にはなっていましたが、
ZAXに戦士系キャラがいることは聞いたことがありませんでした。
鍛冶キャラで、Karenというキャラがいるのは知っていましたが…。


どうも腑に落ちません。
とは言うものの…、
大恩あるZAXの頼みを無下に断ることも出来ません。
黒閣下に2倍ダメージを与える武器…、
という点を考えると非常に惜しくはありましたが、
その武器一つでここまで築いてきた2人の関係を壊すこともありません。
結局、譲ることにしました。





翌日。
フォードはヘイブン銀行前で、
ニコルに会いました。
とはいっても別キャラでした。


このニコルの別キャラは、
扇動スキルを得意としたバードキャラで、
フォードと会うたび2人で、
やはりイルシェナーの霊性・ブラッドダンジョンに向かい、
血エレと黒閣下を扇動しては稼いでいました。
扇動スキルに、
難易度がつく前の話です。

思えば、すごい時代でしたね…。
一定スキル数があれば、
絶対扇動が成功していた…様な記憶があります。





ニコルと話していると、
どこからともなくRyoが現れます。
話をしていると、
Ryoも一緒に狩りに行きたい…ということになりました。
簡単に2人をお互いに紹介し、
話がまとまったので、
3人でブラッドダンジョンに向かいます。


しばらくは、
ニコルが扇動した黒閣下と血エレを倒していたRyoとフォードですが、
そのうちRyoが飽きてきて、
「なあ、フォード。
俺、黒閣下とタイマンやるぜ」

と言い出しました。


今までも黒閣下に挑んではいたのですが、
いまだにタイマンをしたことはありませんでした。
大体はRyoがアタックして、
途中で死んでしまい、
その仕事をフォードが引き継ぎ、Ryoを蘇生するというような
流れになっていました。
ゆえに彼1人での黒閣下タイマンは、
意外にまだだったのです。


「おいおい、その格好でやるのかい?」
フォードがRyoの軽装を見ながら苦笑します。
「ああ、任せておけって。俺にはこいつがあるんだ」
そう言ってRyoが構えたのは、
普段使っている金ハルバードではなく…、
悪魔特効ハルバードでした。





その時の、
フォードの心境をどう表せばいいのか…。
自身のことながら、
時間が経ってしまった今では、
とても難しいことのように思えます。


一言で言えば、
「疑念」が生じました。


何故だ…?
何故、Ryoがそれを持っている…?
昨日、ZAXが手に入れたものじゃないか…。
間違いない…、あのハルバードだ…。
でも、まさか…違うヤツか…?
Ryo…、ZAX…、
まさか…


呆然とするフォードを尻目に、
Ryoはタイマンを始めます。
ニコルがフォードの隣に寄ってきて、
「おい、回復とかしちゃダメなのか。」
と聞いてきます。


その言葉でかろうじて我を取り戻したフォードは、
「あ、ああ、黙って見ててやってくれ。タイマンなんだ」

「わかった。」


「ただしヤツが死んだ場合は、俺たちがやることになる。
その時は、頼むぞ?」

「フォードだけだと、死ぬね。」

「…言い難いことを、はっきりと…」


そんな会話の横で、
Ryoは黒閣下と死闘を続けます。
さすがに白Tシャツ、青ジーパンでは死ねると思ったようで、
途中から鎧を着始めていました(笑)。





どれだけの時が経ったのか…。
30分は間違いなく、戦っていました。
何せ黒閣下の一撃を食らうたびに、
RyoのHPバーは真っ赤になります。
それを包帯で治すわけですから、
否がおうにも時間がかかります。
危ないシーンも結構あったのですが、
ニコルの思惑とは別に(笑)、
Ryoがついに撃破しました!





「おおおおおおおおおおおおお!」

Ryoが咆哮しています。


その気持ち、
フォードも痛いほどわかります。
そして…、
どこかでRyoに負けてしまったなあ…という、
寂しさにも悔しさにも似た感情が駆け抜けます。


余程嬉しかったのでしょう、
Ryoは傷だらけの身体でフォードの駆け寄ってきて、
「なあ!見たか、フォード!やったぜ」
と話しかけます。


その傷を包帯で治療しながらフォードも、
「おう、やったな!」
と応えます。


「さすがに鎧は途中で着ちまったんだけどさ」
「しょうがないよ、Ryo。それにしてもその武器…」
内心、
どう聞けばいいのか迷いながらも、
フォードが尋ねます。
「ああ、これな、これ実は…」


そうRyoが言いかけた、その時です。


「これ、拾ったぞ」





ニコルが黒閣下から戦利品を持ってきて、
2人の前に出しました。


Ryoが静かにニコルの方に、
向き直りました。


「はあ・・・・・・」


ため息をついています。
何だろう…?と思いながらも様子を伺うフォード。


「あのさ、何やってんの」
それがRyoの言葉でした。


「その黒閣下さ、俺が倒したんだよ。何勝手に取り出してんの」

「話しているから、死体が消えたらまずいと思ってとっておいた。」

「バカ、消えねえよ。何やってんの。勝手なことすんなよ」

さすがに、これにはニコルも黙ってしまいます。


「俺が倒した獲物なんだよ、何様だ、お前?
こういうのさ、自分の手で取りたいんだよ。
わかんねえかな?
いくらパーティー組んでるからって、
無神経だな


私は、あまりの言葉に、唖然としてしまいました。


ニコルは…、無言で走り出してしまいました。


「何なんだよ…、こっちの気がさめちまったぜ、なあ、フォード」


その言葉の続きは、もうフォードの耳に届きませんでした。
フォードは乗っていたオスタードを必死に駆り立て、
ニコルを追いました。





フォードがニコルを視界にとらえた時…、
ニコルはちょうど、
霊性のムーンゲートに入ろうとしているところでした。


「待てよ!」
フォードが叫びます。
ニコルは立ち止まったものの、無言です。

「ニコ…、あのさ」

そこで話をしようとしたフォードですが、
あとからRyoが追ってくるかもしれない…ということを考え、

「まずは場所を移ろう」

と言ってニコルを連れてイルシェナーを後にします。


2人は、ヘイブンの東にある農場近くに来ました。

「ニコ…」

さすがに今回ばかりは、
フォードも何と言えばいいのか言葉が浮かびません。


「別に…取ろうとしたわけじゃない…」



少しの間があって、
ニコルが口を開きました。
いつもの調子はまったくありません。
こんなに元気がなかったのは初めてです…。






「消えちゃう…死体…。せっかく倒したのに。
そう思って取ったのに。
回復もしたかったのに…それも我慢したのに。」



「ああ…」


「あんなの、勝手だよ。何だよ、泥棒みたいに言われた。」


「ニコ…、気にすんな。お前は悪いことはしちゃいない」


「フォード、…あれ、フォードの友達なんだろ。」


「友達…かもしれないが、今回のことはニコは悪くない」


「…ほんとか。」


「ああ、本当だ。俺はニコの味方だ」


そのとき、パーティーコマンドでRyoから、
Ryo:フォード、どこだ?戦利品分けようぜ
と来ました。
当然、
まだパーティーを組んでいるニコルにもそのメッセージは届いたはずです。


「…フォード、行ってもいいんだぞ。友達だろ。」
ニコルがそう言います。


「いいんだ」


「え?」


「いいんだ、…放っておくさ!」


「フォード…貧乏だろ。
銀行に2万くらいしかないんだろ。
お金もらってこいよ。」


ぐさっ。

た、たしかに、そ、そーなんだが…。



「いいんだ、ニコ。
俺は金なんかより、仲間の方が大事だ。
Ryoのことなんか、気にするな。
そんなことより、元気出してくれ、ニコ。
また一緒に俺と狩りに行ってくれ。」


「…わかった。でも、もうアイツは会いたくない」


「ああ、もう今日みたいなことはない。約束するよ」


「今日…もう遅いから寝る。」


「ああ、わかった。またな、ニコ」


「フォード。」


「ん?」


「でも銀行に2万はやばいぞ。少しためろ。」


再び、
ぐさっ。


「ああ、わかったよ(苦笑)」





こんなことが起きるとは…、
フォードも全く予想していませんでした。
そして、
Ryoに対して思っていた、
いやわかっていながら受け入れようとしていなかった一面、
…というよりは彼のキャラクターをまざまざと見せ付けられた思いがしました。


俺は、こういう男だ…。


Ryoが、
フォードにそう言っているような気がしました。
しかし、
本当に放っておくわけにもいきません。
そう思ったフォードは今更ながら、
霊性に向かいます。





霊性のゲートを出ると…、
戻ってきたRyoにばったり出くわしました。


「Ryo…!」

「よお、フォード。どこに行ってたんだ?」


何事もなかったかのように話すRyo。


「Ryo…さっきのは…」

「ああ、あれな。いい加減にしろってな、全く。頭来たぜ」

「そうじゃない…」

「ん?」

「いくらなんでも、あれはないだろう!一緒に狩りをした仲間だぞ?!」


Ryoが一瞬黙り込みます。


「一緒に狩りはしたが、黒閣下を倒したのは俺だ」


「だが…!」

「だがでもなんでもねえよ、フォード。
お前だって自分の獲物に手ぇ出されたらそう思うだろうが」


「俺は…そんなことはない」

「嘘付け。そうじゃなきゃ、お前にはまだわかってないだけだよ」


「Ryo…!いい加減にしないと、仲間を全部失うぞ!」

「仲間…?俺の仲間はそんなことしねえよ。お前のようにさ、フォード」


「Ryo…!」


一瞬、間がありました。
そして…、
「ははは、フォード全くお前ってヤツは…」
急にRyoが笑い出しました。


「な、なんだ、俺は真剣に…」
フォードもここまで言われては、
怒ります。
しかし。
Ryoの次の言葉がフォードを止めました。


「オマエ、
ZAXが言ってた通りのヤツだな。
アツイよ」

to be continued...

 
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